17/Sep./2020 更新


お月見のはなし



  *** 目   次 ***

1. お月見とは
2.お月見の日は、なぜ毎年ちがうの?
3.中秋の名月は必ず満月なの?
4.「中秋の名月」か、「仲秋の名月」か?
5.月見の風習いろいろ
6.昭和初期における大阪府内各地の月見の食風習
7.月見団子いろいろ
8.月見風習調査余話


1.お月見とは
 お月見は旧暦の8月15日に月を鑑賞する行事で、この日の月は「中秋の名月」、「十五夜」、「芋名月」と呼ばれます。月見の日には、おだんごやお餅(中国では月餅)、ススキ、サトイモなどをお供えして月を眺めます。
 月見行事のルーツはよくわかっていません。最近の研究によると、中国各地では月見の日にサトイモを食べることから、もともとはサトイモの収穫祭であったという説が有力となっています。その後、中国で宮廷行事としても行われるようになり、それが日本に入ったのは奈良〜平安時代頃のようです。
 また、日本では8月15日だけでなく9月13日にも月見をする風習があり、こちらは「十三夜」、「後の月」、「栗名月」とも呼ばれています。十三夜には、月見団子の他に栗や枝豆をお供えします。各地には「十五夜をしたなら、必ず十三夜もしなければいけない」という言葉が伝えられており、片方だけの月見を嫌う風習があったようです。十三夜の風習は中国にはなく、日本独自のものです。
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2.お月見の日は、なぜ毎年ちがうの?
 お月見は旧暦で行なう行事です。旧暦(太陰太陽暦)は、月の満ち欠けで日付を決めるもので、現行の太陽暦(グレゴリオ暦)とはシステムが異なります。そのため両者の日付にはまったく関連がなく、従って月見の日付(旧8月15日、旧9月13日)も年によって一定していません。 なお、今の暦と旧暦の関係については、
こちらをご覧下さい。
 以下に、ここ最近の月見の日を紹介しておきます。

中秋の名月(旧8月15日)後の月(旧9月13日)
  2016年     9月15日     10月13日  
  2017年     10月4日     11月1日  
  2018年     9月24日     10月21日  
  2019年     9月13日     10月11日  
  2020年     10月1日     10月29日  
  2021年     9月21日     10月18日  
  2022年     9月10日     10月8日  
  2023年     9月29日     10月27日  
  2024年     9月17日     10月15日  
  2025年     10月6日     11月2日  
  2026年     9月25日     10月23日  
  2027年     9月15日     10月12日  
  2028年     10月3日     10月30日  
  2029年     9月22日     10月20日  
  2030年     9月12日     10月9日  
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3.中秋の名月は必ず満月なの?
 旧暦の日付と月の形とを比べてみると、必ずしも15日が満月になるとは限りません。 だいたい13日から17日位までの幅を持っています。
ここ数年の中秋の名月の日(旧暦8月15日)と満月の日をあげてみると、 次のようになります。

中秋の名月(旧8月15日)満月の日
  2020年     10月1日     10月2日 (旧8月16日)  
  2021年     9月21日     9月21日 (旧8月15日)  
  2022年     9月10日     9月10日 (旧8月15日)  
  2023年     9月29日     9月29日 (旧8月15日)  
  2024年     9月17日     9月18日 (旧8月16日)  
  2025年     10月6日     10月7日 (旧8月16日)  
  2026年     9月25日     9月27日 (旧8月17日)  
  2027年     9月15日     9月16日 (旧8月16日)  
  2028年     10月3日     9月4日 (旧8月16日)  
  2029年     9月22日     9月23日 (旧8月16日)  




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4.「中秋」か、「仲秋」か?
 「中秋の名月」か「仲秋の名月」か?。この二つの書き方はよく混同されているようですが、「中秋」と「仲秋」それぞれにちゃんと意味があります。ではどっちがいいのか?。諸橋轍次著『大漢和辞典』を見てみましょう。以下、引用します
【中秋】 (1)秋を三分したなかの秋。仲秋。 (2)秋のまんなか。陰暦八月十五日。

【仲秋】 秋三箇月の中の月。即ち陰暦八月。中商。なかのあき。八月十五日を指す中秋は、これとは別の語。

と、とても明快に説明がされています。
 つまり、お月見の日(旧8月15日)に見える月の場合は「中秋の名月」と書くほうがいいことになります。
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5.月見の風習いろいろ
 最近は月見といっても、お店で買ったススキと月見団子をお供えするだけの家庭が多い様ですが、数十年前までは各地で様々な行事が行なわれていました。
a) 十五夜のお供え物として全国的に見られるのが、サトイモ等の芋類。これは、中秋の名月がサトイモの収穫祭の性格を持つことを示しています。
b) ススキも全国でお供えされています。供えたススキを家の軒に吊るしておくと一年間病気をしない、という言い伝えが全国に分布しています。
c) 南九州や沖縄などでは、十五夜に綱引きをする風習があります。
d) 日本版ハロウィンとも言うべき「お月見どろぼう」という風習が全国にあります。家々では軒先や玄関に月見団子を縁側にお供えし、それを子どもたちが盗み食いするのです。もちろん本当のどろぼうではなく、各家庭ではあらかじめ玄関先などにお団子を置いておくわけです。団子は多く盗まれた方が縁起がよいとされました。最近では、子どもたちにお菓子を配るような場合もあるようです。
e) お供えする月見団子の個数は、その年の旧暦の月数というのが一般的で、平年は12個、閏月のある年は13個お供えします。


 その他、月見の風習は地域によってかなり異なりますし、またそれぞれには意味もあったようです。とはいっても、都会を中心にこれらの風習も消える傾向にあり、あまり見かけることも無くなってきました。

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6.昭和初期における大阪府内各地の月見の食風習

 大阪ではどのような月見風習があるのでしょうか。その一端を知るために、月見の日における大阪での食風習を調べてみました。
 調べたのは、(財)農山漁村文化協会が発行している『聞き書き 大阪の食事』(1991年)という本です。この本は、昭和初期における日本全国の食文化を聞きとり調査したものをまとめたシリーズの一冊です(各都道府県が一冊になっている)。この書物中に書かれていた月見の日の食事の記事を拾い出してみました。
 以下の記述は全て本書からの引用文です。

(1)大阪市北区西天満
 まんじゅう屋で買った白い丸だんご十三個と、ゆがいた小いも十三個を三宝に盛り、縁側に置いてお供えする。すすきも生ける。お下がりのだんごに砂糖をつけていただく。

(2)大阪市港区
 机に白い布を敷き、三宝にお月見だんごをのせる。栗やさつまいもを盛ったかご、お月見だんご、ススキを生けた花びんを並べて、中秋の名月をめでる。お月見だんごは、上しん粉でつくった紡錘形のだんごを、ぐるっとこしあんでくるむ。

(3)大阪府八尾市恩知中町
 米粉で十三、一つ(計一四個)のお月見だんごをつくる。どろいも、油揚げ、こんにゃく、なたまめを油揚げのだしで煮、だんごと一緒に盛りつけ、ススキ、ハギ、けいとうなどの生花を生ける。

(4)大阪府寝屋川市対馬江
 月見だんごは、小豆あんをこってりつけて十三、七つ(合計二十個)盛りつける。小いもは煮て十三、七つ盛りつける。それに一升びんにススキとハギをさして一緒にお供えする。

(5)大阪府河内長野市滝畑
 小いも、こんにゃく、みょうが(みょうがの子)の煮ものと、くぼ柿、空びんなどにさしたかや(ススキ)の穂を月に供える。

(6)大阪府豊能郡豊能町切畑
 「はぎやかや(すすき)を生け、あん入りのだんごと、炊いて味付けしたずいきいもを供え、月見をする。

(7)大阪府岸和田市大工町
 縁側に台を置き、ハギとススキを飾り、だんご、小いも、それに果物があれば、あるものを供える。煮干しでだしをとり、しょうゆと砂糖を少々入れた少し甘い澄まし汁をつくり、そこに月見だんご小いもと一緒に入れる。だんごと小いもは併せて十三個お腕に入れてお供えする。

この内容を図にしたものは、
こちら(JPEG , 114KB)

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7.月見団子いろいろ

月見団子は、地域によって形や素材、供える個数などが随分違うようです。下に示したのは、大阪市内のスーパーなどでみつけた月見団子の写真です。1、2件の店に行ったただけでも、様々な種類の団子に出会えます。ちなみに、大阪近辺のお店で一番普通に見かけるのは、写真左奥のタイプの団子で、紡錘型の白玉ダンゴにアンコをくるんであります。


下の写真は、静岡県中部で一般的な月見団子「へそもち」です。 丸くて平べったい形で、真ん中がくぼんでいて、「赤血球の形」と表現されるそうです。 平年は12個、閏月のある年は13個お供えします。






では、月見団子は地域によってどのくらい違うものなのでしょうか。それを知るために、1997年にアンケート調査を実施しました。以下にはその一部を示しておきます。

地域団子の名称原材料供える個数備考
新潟県巻町 月見団子 白玉粉 赤血球のような形
長野県長野市 おはぎ もち米、アンコ 「ぼたもち」ともいう
長野県辰野町 団子 いっぱい おはぎもある
長野県茅野市 のたもち ご飯、枝豆 のた(つぶした枝豆)のおはぎ
名古屋市千種区 団子 適当 月見団子はない。普通の団子を供える。
大阪市中央区 月見団子 白玉粉 13
大阪府大東市 月見団子 米粉、こし餡 4〜5 紡錘型。市場で買う
大阪市住吉区 月見団子 白玉粉 不定 球状
大阪市住吉区 月見団子 白玉粉、アンコ 適当 先が細い筒型
大阪府岸和田市 月見団子 米粉、メリケン粉 13 球形。里芋と一緒に煮て食す。
奈良県五條市 団子はお供えしない
和歌山県田辺市 月見団子 米粉 12(閏年は13) 里芋型の餅にきな粉
和歌山県那賀郡 月見団子 既製品 きな粉団子。丸い団子の串刺し
高知県南国市 かしわ餅 米、米粉 三宝に載せて供える
沖縄県平良市 フキャギ もち米、小豆 お盆に一山 紡錘型から小判型


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8.月見風習調査余話

 1997年の夏、日本各地の月見風習を調べるためにアンケート調査を実施しました。ここでは、寄せられた回答のうち興味深い回答をご紹介します。


6−1.大阪府岸和田市の「団子突かせてぇー」
 岸和田市の方からは、以下のような回答がありました。

「以前は、他所の家に供えてある団子+芋を、子どもたちが竹や木の棒で突きに行きました。まあ盗み食いに行くわけですが、もちろん何処の家の人も知っていて見つかっても怒られない。おいしく炊いてある家のは人気があって、すぐなくなってしまう。明るいうちから行って突いていたら「そんなに早よ来たらお月さん食う暇ないわ」と言われたらしい。 最近は代わりにお菓子をもらいに行くようになったところもあるらしい。」

 民俗学の本をみると、子どもが軒下の団子を突くという風習は、昭和中期ころまでは大阪府内各地にあったそうです。しかし時代と共にすたれていき、また風習が残った地域でも、団子がお菓子に変わっていく傾向にあるようです。
 現在でも、岸和田市内の一部ではこのような風習が残っているようです。大阪府岸和田市の広報誌『広報きしわだ』1997年10月1日号の「カメラde散歩」コーナーには、には、以下のような記事が載っていました。以下、引用します。
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団子 つかせてぇ
〜中秋の名月〜
 市内の一部の地域では、中秋の名月に子どもたち各家庭をまわり、「団子突かせてぇ」と団子をはしでつついて、もらう風習が残っています。ただ近ごろでは、団子のかわりに、お菓子をもらうのがほとんどのようです。今回は、流木町で写真を撮りました。(写真略)
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6−2.沖縄県平良市(宮古島)の「シーシャガウガウ」。
 沖縄の宮古島から、おもしろい回答がよせられました。お月見行事として、子ども達が獅子舞をして町中を練り歩くというものです。以下、アンケート回答を引用します。
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Q:お月見には何か行事をしますか?
A:「シーシャガウガウ」つまり獅子舞いです。 子供たち(主に小学生)がグループを作って、ダンボールや麻袋で獅子を作って、囃子方を従えて近所の家を回るようです。1軒当たり百円程度のお駄賃がもらえるそうで、一晩で2千円程の収入になるそうです。各家庭では次々やってくる獅子舞いを待ちながら、泡盛を回すのです。昔は獅子はいなくて,子供たちが樹の枝で家々の雨戸を叩きながら厄払いをするという行事だったそうです。
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この獅子舞行事も、岸和田の「団子突かせてぇ」同様、子どもたちが主役となり各家庭をまわるというものです。このような子ども主体の行事は、日本各地に分布しているとの事です。



6−3.月見行事の無い地域? 〜香川県小豆郡内海町・土庄町〜。
 意外なアンケート回答もありました。香川県の小豆島からの回答で、なんとお月見行事をしない、というものです。以下、アンケート回答の引用です。
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 うちの方では、お月見行事は何もやっていません。念のため、友人や職場の同僚にも聞いてみたり、小豆島の昔ながらの風習をまとめている資料なども調べてみましたが、小豆島ではどこもやってないみたいです。ということで、香川県小豆郡内海町および土庄町では、何もお供えや行事をしません。最近は世間の波に流されて、すすきを飾ってみたり、お店(スーパーや和菓子屋)で買ってきた月見団子を食べたりしている家庭も多いようです。
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お月見行事をしないなんて、意外に思ったのですが…。まさか「月見」そのもの自体しないのでしょうか? どなたか小豆島の月見風習に関する情報をお持ちの方はいらっしゃいませんか?ぜひ情報をお寄せください。また、その他にも月見風習の無い地域があるのでしょうか。興味あるところです。ぜひご教示を。



その他、鹿児島県喜界島の方からは「月見の夜には相撲大会をする」という回答が寄せられるなど、旧来の月見風習が残っている地域もまだまだあるようです。各地域を丹念に調べていけば、昔ながらの風習に出会える可能性はあることでしょう。ぜひ、みなさんも身近なところから調べてみて下さい。
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